積載物に右手を挟まれてCRPSの診断を受けた被災者が、後遺障害(準用)6級の認定を受け、その後示談交渉で早期解決に至った事案

事案の概要

 被災者 30代 女性

 職業 アルバイト

 被災内容 CRPS(複合性局所疼痛症候群) 

依頼のきっかけ

 依頼者は、工場内で、台車を押して荷物(積載物)を運搬していたところ、台車と積載物の間に右手を挟まれて、CRPS(複合性局所疼痛症候群)を発症しました。

 右手が不自由になる一方で、会社としては労災以外の補償を考えているような素振りを見せませんでした。今後の後遺障害等級は適切になされるのか、会社からの補償は何かあるのか、今後働くことができなければ経済面はどうしたら良いのか等々、様々な不安が一気に押し寄せてきたため、何とかこれらの問題を解決できる余地がないのか考えてラグーンに来所されました。

等級認定・交渉の経緯

 依頼者からは、会社側としては、依頼者以外の人物が関与しない事故であるため、いわば自損事故のようなもので、賠償責任はないと考えているのではないかとお聞きしていました。また、依頼者自身も、相談当初は、労災保険以外のことを会社に対して請求することは難しいのではないかとも考えていました。

 そこで、ラグーンではまず事故状況について調査をしました。また、類似の事故に関する裁判例の調査も行いました。調査したところ、工場の構造(スロープがあり、かつわずかな段差もあるため、振動等で台車に積載した荷物が固定されずに動く可能性がある)に問題があり、また、形式的には台車への積載方法について会社から従業員に対する注意喚起がなされていたものの、現実には過積載に近い状態が横行していた可能性があること等の問題点が明らかになりました。そして、このような事案においては、会社の安全配慮義務違反が認められる可能性は高いものと判断するに至りました。

 依頼者は完治を望みましたが、CRPSとして症状が残ったため、やむなく後遺障害申請をすることになりました。結果としては、後遺障害等級準用6級(右手関節と右手指関節の機能障害)との判断がなされました。

 そこで、この判断を前提に、会社に安全配慮義務違反があることを理由として、会社に損害賠償請求をしました。

 会社としては責任がないと反論をしてくることが想定されましたが、結論としては、過失相殺の主張と休業損害・逸失利益の算定について反論があるのみ(ただ、訴訟になった場合には責任の有無についても争うというスタンス)であったことから、交渉を続け、最終的には5割の過失相殺がなされたものの、他の損害(休業損害、慰謝料、逸失利益)については裁判基準で当方の主張が認められたため、早期解決を希望するという判断もあって、裁判外で示談となりました。

弁護士の目 

 CRPSは、医学的な臨床レベルでの診断基準と後遺障害等級を審査するレベルでの基準が異なります。重なる部分もありますが、労災や交通事故で後遺障害等級認定を受けるときのほうが一般的には厳しい基準を用いられています。そのため、主治医から、CRPSの診断を受けたからといって、必ずしも、その症状が後遺障害等級にそのまま反映されるものではないという点に留意する必要があります。なお、CRPSそのものが後遺障害等級の理由になるのではなく、あくまでCRPSの診断根拠となった症状(例えば、関節の機能障害等)が後遺障害として認定されることになりますので、この点についても、慎重に精査したうえで、労災の等級認定申請手続を進める必要があります。

本件では、準用等級(等級表には直接的に掲げられていないものの、その等級と同等と判断される場合に準用として同じ扱いにすること)として、CRPSの事案では珍しく6級(通常は重い事案で7級と判断されます)の認定がなされました。

 また、会社の責任については、仮に裁判となった場合には、どの点をもって安全配慮義務違反と主張するのか、非常に悩ましく、難航されることが予想される事案でした。かつ大幅な過失相殺も懸念されました。しかしながら、この点については、会社側も紛争の長期化または提訴されることによる諸々のリスクをおそれたのか、最終的には大きな争点となることなく、裁判基準を内容として、早期解決を図ることができました。